佐伯和子は1951年四国の街で生まれた。
美術愛好家の父に買い与えられた小さな美術全集を読むのが楽しみの子供であった。
幼いながら惹かれた作家はクレー、カンディンスキー、マチス。明るい色調が好きなところは今も変わっていない。
武蔵野美術大学で工芸デザインを学び卒業する頃には作家になろうと決めていた。
デザイナーになるより製作工程のすべてに関わる作家の方が性にあっていた。タピストリーを織って生活できることが夢であった。
30歳で初個展をひらき、これをきっかけにパブリックアートの依頼も徐々に増えた。
以後20年間タピストリーを造るうちに、織ることの必然性がないことに気が付きはじめる。さまざまな建築空間の中でのオーダーに応えるためには技法のこだわりを捨てなければならなかった。その場所に一番ふさわしい造形物が織物とは限らないからである。
―和紙―
手すき和紙は 日本でも存続が危ぶまれているが、造形材料として優れたものである。
「色と質感にこだわる作品を造る」をポリシーにしている佐伯和子にとって大切な素材となった。日本国内には途絶えようとするこの伝統産業をかろうじて続けている産地がまだいくつか残っている。
特性を見極めるために工場を訪れ製作者の意見を聞いてきた。パブリックアートの依頼は全国各地であったがなるべくその地域の紙を使い、地産地消を心掛けてきた。
和紙に顔料絵の具で彩色をし、木製のタイルに貼り込みそれを組み合わせたパネル作品は「和紙モザイク」と名付けられた。9mm厚のベニヤでピースを3サイズつくりエッヂを削り立体感を持たせた。壁面に合わせた大きさで組み合わせることができ、耐久性があり、近代的な建築空間に温かみをもたらす。